2003.12.05


ワクチンは何のためにするのか

大在こどもクリニック 院長 澤口博人

赤ちゃんが「おたふく風邪」に罹って治ると、「この子はもう、生涯、おたふく風邪には罹らない」といいます。このように「一度おたふく風邪に罹ったので、もう二度と罹らない」ことを、「おたふく風邪に免疫を持っている」といいます。「免疫」とは「疫(えやみ=やまい)」から「免(まぬが)れる」ということです。

免疫ができる病気はいくつか知られていますので、適応力の大きい乳幼児の時に、あるいは健康な時に、あらかじめ免疫を作り上げる工夫がされています。「免疫をつくる種(たね)」を「ワクチン」といいますが、これを注射したり、飲んだり、皮膚に付けたりして、その病気に対する免疫力を作るのです。

「ワクチン」とは「牛の疱瘡から造った免疫の種」というドイツ語「バクチーン」を借りた言葉で「種痘」と翻訳されますが、疱瘡以外の病気についても「免疫の種、免疫を造る薬」という意味で使われます。

1876年イギリスのジェンナーが天然痘を予防するために牛からとった天然痘を子供に接種したのがワクチン接種の始まりです。この種痘は全世界的に根絶を目指して接種した結果、1980年に根絶宣言をすることができ、現在予防接種はされていません。

このように一人一人の子供を重大な感染症から守り、なおかつ根絶を目指すのが予防接種の目的となります。

 

ワクチンの種類:大きく分けて3つあります。

1.生ワクチン 

病気のもとになるウイルスや細菌などを「病原体」といいますが、病原体の力を極めて弱くしたもの。自然感染と同様の強力な免疫が得られます。ポリオ、麻疹、風疹、おたふくかぜ、水痘、BCGがこれにあたります。

2.不活化ワクチン

病原体の一部だけを取り出したもの。免疫を得るためには何回かの接種を行う必要があります。三種混合、日本脳炎、インフルエンザ、肝炎ワクチンがこれにあたります。

3.トキソイド

病原体が出す毒素を取りだして無毒化したりしたもの破傷風トキソイド

いずれも身体に入れたり皮膚に付けたりしても、病気にならないように工夫してつくられます。

病気の中には、乳幼児期に罹っても軽く済むが、大人になってから罹ると重いものがあります。予防接種をうまく利用することで病気に罹る心配を少なくすることができます。

 

定期接種、任意接種

ワクチンによる予防接種の中には、是非受けるべきだと「国が強く奨めているもの」や、「出来れば受けたほうがよいとされているもの」があります。

ポリオDPT三種混合(D:ジフテリア、P:百日せき、T:破傷風)、麻しん(はしか)、風しん日本脳炎BCGの六つの予防接種は「定期接種(勧奨接種)」として、国が強く奨めています。

インフルエンザおたふくかぜ水痘(水疱瘡)A型肝炎B型肝炎などの予防接種は赤ちゃんの周囲の環境や家族の状況などを考慮して、出来れば受けるべきとされている「任意接種」で実施されています。

 

 

 

接種間隔

生ワクチンは接種したワクチンウイルスが体内で増殖して免疫を付与します。2種類のワクチンを引き続き接種すると、先に接種した生ワクチンにより産生されたインターフェロンが、次に接種した生ワクチンの免疫効果を抑制することも考えられます。また時期をあけずに接種するとワクチンの副反応の原因がわからなくなる可能性もでてきます。このため少なくとも1か月の間隔をあけるようにしています。

ポリオワクチンは腸管粘膜で増殖するのに2週間から6週間かかります。そのため6週間以内に2回目を接種すると2回目のウイルスの増殖が妨げられるため少なくとも6週間あけるようになっています。

不活化ワクチンは1週間たてばワクチンによる反応が無くなるため1週間以上あけるように指導します。

 

予防接種の対象となっている感染症について

麻疹

麻疹ウイルスの感染により発熱、かぜ症状、全身の発疹を主症状とする小児期の急性ウイルス感染症であり、脳炎を合併したり細菌の混合感染による肺炎を併発し、年間20人が死亡しています。予防接種の時期としては新生児・乳児期は母親の移行抗体により効果があがりにくいため1才から7才半まで公費無料接種となります。重症化しやすい病気ですので1才の誕生日をむかえたらすぐに接種して下さい。

風疹

妊婦が風疹にかかることによりその子供が重大な障害(難聴、先天性心疾患など)をもって産まれてくる先天性風疹症候群が問題になります。妊婦の感染が問題であるということで当初は中学2年生の女子にのみ接種をしていたのですが、それだけでは根本的に風疹の流行を抑えることはできないということで、平成6年10月より麻疹同様1才から7才半までの子供全員を対象に予防接種を勧めることになりました。ただし3才以後にかかることが多いので麻疹のあとで接種しても間に合います。

BCG

結核予防目的にて接種します。結核の死亡率は人口10万人に対し2.6人で先進国の中ではまだ高いです。新生児期の結核は死に至るくらい重症化するため早期接種が望まれます。BCGは結核予防に有用であり、結核の患者がなくならない限り接種をする必要があります。副反応として接種すると1ないし2カ月でリンパ節腫脹を認めることがありますがほとんど自然に消えていきます。先天性免疫不全症の児に接種すると致死的になるため3ヶ月から4才までが公費接種の対象です。

ポリオ

感染すると小児麻痺をおこす怖い病気で、世界的に根絶を目指して予防接種が行われており、3カ月から7才半までの子供全員を対象に予防接種が行われています。1回だけでは抵抗力のできる子供が少ないので2回接種となります。

三種混合

ジフテリア・百日咳・破傷風を予防するために接種します。

ジフテリアは呼吸困難、心筋障害、末梢神経炎をおこし、10%が死亡する可能性があります。

百日咳は不顕性感染といっていつのまにか感染して終わってしまう方が多いのですが、発症してしまうと名前通り3カ月くらい、ひどいときには呼吸困難を起こすような咳が続き、肺炎、脳炎を併発することもあります。百日咳患者の年令分布は0才および1才で約50%を占めています。母親からの移行免疫はわずかなので新生児期から罹るものがあります。

破傷風は外を元気に走り回って傷だらけになる子供は土壌から傷より感染を起こす可能性がある病気です。これは自然感染による免疫獲得はないので予防接種でしか発生防止できません。根絶はないので予防接種をする方がよいです。

ジフテリア、破傷風の両抗毒素、百日咳抗体の母体からの移行抗体が生後2か月には失われるため接種は3カ月から7才半までで、1期初回が3回1年おいて追加を1回接種します。だめおしに11才から13才未満を対象にジフテリア・破傷風の二種混合を接種します。

日本脳炎

蚊が血液を吸うときにその唾液によって感染します。人から人への感染はありません。感染した100人に1人が脳炎を発症し、そのうち約2割が死亡、5割に後遺症を残します。特に九州に患者が多く蚊の発生の少ない北海道、東北地方では少ないようです。

予防接種法では6カ月から7才半までの子供に接種するようにとなっていますが大分市では3才からとなっています。これはかかりやすい年齢が5才であることが根拠になっているようです。1期初回が2回1年おいて追加を1回9から13才未満を対象に2期1回14から16才を対象に3期1回接種します。

おたふくかぜ

集団生活をする4才前後に最もかかりやすいことと、いったんおたふくかぜにかかると無菌性髄膜炎、難聴、睾丸炎などの合併症の心配があるためワクチンを接種したほうが賢明です。ただし新三種混合(はしか、風疹、おたふくかぜ)接種時に1200人に1人に無菌性髄膜炎の発生がありました。しかし症状は軽く後遺症は残りません。

水痘

小児に残された最大の感染症であり健康な小児の場合は一般的に軽症ですみますが中には重症化することもあります。白血病など免疫の低下した子供がかかると死に至ることもあります。予防接種をすると9割の子供に免疫を付与できるため有効です。アメリカでは小児全員に接種しています。

大分県では予防接種は全県相互乗り入れが平成14年4月から開始され、住所が大分県内のどこにあっても他の市町村で予防接種ができるようになりました。対象になるのは3種混合、BCG、麻疹、風疹、日本脳炎です。ポリオは住民票のある市町村で接種して下さい。また1部市町村ではBCGも他市町村では接種できないようですのでくわしくは市町村役場にお問い合わせ下さい。

なお大分県以外では予防接種の接種方法が異なりますので、里帰り分娩で大分県外に居住されている方は、住民票のある市町村役場にお問い合わせ下さい。

 

最後に:

さわじぃ

伝染病が流行しないのは多くの方が予防接種をして集団予防ができているためです。流行しないから予防接種をしなくてよいのではありません。特に麻疹はかかってしまうと命にかかわることのある怖い病気です。自然感染の方がよいと思われる方もいらっしゃるようですが、日本では麻疹による死亡者数は昭和25年から30年にかけて年間1万人もいたのです。1歳の誕生日には麻疹予防接種をぜひうけさせて下さい。